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ハチドリのひとしずく


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経済について

1.アベノミクスによる、経済格差の拡大と「バブル経済」誘導の危険性

安倍総理は現在、アベノミクスの効果により、企業の収益、税収、求人率、大卒や高卒の就職率などが上昇し、景気は確実に良くなって来ていると言っています。しかし、一方、サラリーマンの実質賃金は下がり続け、国のGDPの6割を占める個人消費は二年連続で下がってしまい、庶民にとって景気回復の実感は全くありません。総理は、これは、アベノミクスがまだ道半ばのためであり、いずれアベノミクスの果実が一般国民にも回っていくと、一層アベノミクスを推進する必要があると述べています。しかし、本当にこのままアベノミクスを推進して行けば、トリクルダウンにより、大企業や富裕層が受けた利益が一般国民に回って来るのでしょうか。私は、安倍総理が言う現在の大企業を中心とした景気の良さは、決して本当の景気回復ではなく、景気の実体に合わない、人為的に無理やり作られた、バブルの様なものだと考えます。それは、アベノミクスによる経済政策が、大規模な金融緩和による円安により、人為的にもたらされた為替差益による輸出利益の増加に頼ったものであり、実際には、企業の製品に対する需要が増加してはいないからです。以下、アベノミクスが生み出した、経済格差の拡大と実態と合わない好景気(「アベノミクスバブル」)の原因と実体、その危険性について考えていきます。

アベノミクスのトリクルダウンが経済格差拡大の原因

アベノミクスの効果が一般国民に及ばず、国民の一般消費が増加しない一番大きな原因は、アベノミクスの根幹をなすトリクルダウンという考え方です。トリクルダウンとは簡単に言うと、大企業や富裕層を儲けさせ豊かにし、その儲けが中小企業に及ぶことにより日本全体の景気を良くしようということです。つまり、言葉は悪いかもしれませんが、一般庶民は大企業や富裕層のおこぼれをもらい豊かになるという考え方です。最初に、大企業やその経営者と株主達、株取引で儲けている投資家などの富裕層が十分に裕福になった後、そのおこぼれをもらい一般庶民は豊かになるのです。だから、そのおこぼれが一般庶民に回ってくるまでは、富裕層と一般庶民との貧富の差、経済格差が大きくなるのは当然です。また、大企業が儲かりおこぼれが出始めたとしても、最初に給料があがるのは、もともと高収入である大企業の従業員達だし、株価が上がって裕福になるのも株などを保有している資産家や投資家などのもともと裕福な人達です。そのため、中小零細企業に勤める人達や自営業の人達までおこぼれが回ってくるまでには非常に時間がかかり、その間に国民の貧富の差、経済格差はますます大きくなってしまいます。

安倍総理は、これは、あくまでも一時的なものであり、やがては一般庶民にも大企業や富裕層の儲けがしたたり落ち回っていくと、説明しています。しかし、私は、これは間違った考えだと思います。トリクルダウンという考え方が持つ本質的な欠陥と、アベノミクスによる経済政策が、金融緩和による円安誘導により輸出企業の輸出利益の増加に頼ったものであるという、二つの理由により、大企業や富裕層の儲けは一般庶民にはほとんど回っていかず、回ったとしても富裕層と庶民の経済格差はこれまでよりも格段に大きなものになってしまうと考えます。

トリクルダウンの持つ本質的な欠陥

トリクルダウンを説明するときのモデルとして、シャンパンタワーが良く使われます。近頃は、結婚式などで良く使われるし、テレビで映る機会も多いので知っている方は多いと思います。これは、シャンパングラスをピラミッドのような形に積み上げ、その一番てっぺんの一個のシャンパングラスにシャンパンを注ぎつづけることにより、そのシャンパングラスからあふれだしたシャンパンがそのすぐ下に積んである複数のシャンパングラスにしたたり落ち、そのシャンパングラスが一杯にになると、次にその下の段の複数のシャンパングラスにあふれたシャンパンがしたたり落ちることを繰り返すことにより、全ての段の全てのシャンパングラスにシャンパンが注がれ一杯になるというものです。

これは、ある一面ではトリクルダウンの考え方を非常にわかりやすく示していると思います。一番上の一個のグラスにシャンパンを注ぎつづけること、つまり、ごく少数の最上位の大企業や富裕層を儲けさせ利益を与え続ければ、やがて、その利益は大企業や富裕層からこぼれ出て、経済的に下に位置する階層の人達にも、階層の上の人達から順番に徐々にしたたり落ち回っていき、やがては、全ての人々が利益を受け取ることが出来るということ。経済的に最上位に位置する大企業や富裕層の数が本当に少なく、経済的に下に位置する人の数が非常に多く、しかも、下の位置へ行くほど人数が増えるということ。最上位の人達からの利益が零れ落ちていくのは、より上位に位置している人達からであり、最下層の人達に利益が回っていくのは最後であり時間がかかるということ。また、もし全体に利益がいきわたらないうちに最上位の人達に注がれる利益がなくなってしまった場合、それまでに利益を受け取っていなかった人たちには、その後も、何の利益も回ってこないことを表しています。

現在、アベノミクスの効果として確かに、大企業は、ここ数年、史上最高の利益を上げ、国に入る税収も増加しています。しかし、一方個人消費は2年連続で落ち込み、一般庶民には景気回復の実感はほとんど感じられません。総理は、これはアベノミクスがまだ道半ばであり、今後一般庶民に景気回復を実感してもらうためになお一層アベノミクスを推進していかなけらばならないと述べています。確かに、上記のシャンパンタワーのモデルが完全に正しければ、今後も大企業や富裕層が利益を得られるようにし続ければ、やがては国民全体に平等にグラス一杯分の利益が回っていくでしょう。しかし、これは実際の経済状況や人間の心理を無視したまやかしです。

シャンパンタワーでは一番上のグラスの大きさも一番下の段のグラスの大きさも同じで、しかもその大きさは最後まで変わりません。しかし、実際の経済では、人や企業が利益を受け取り続けているときに、受け取った利益の額がある一定以上になた場合(シャンパングラスが一杯になった場合)、シャンパングラスとは違い、それ以降に受け取る利益を全て消費することはありません。必ず、利益の一部を貯蓄(内部留保)に回し、将来のリスクや家などの大きな買い物(設備投資)に備えます。そのため、シャンパングラスの大きさは一番上の段から順番に大きくなっていき、下の段にはなかなかシャンパンは回ってきません。極端な場合には一番上のシャンパングラスだけがどんどん大きくなり下には何も回ってこないこともあります。現在、資本金10億円以上の大企業が保有する内部留保が年々増加し、300兆円を超えたことは、この、一番上のシャンパングラスがどんどん大きくなっていくことの実例だと思います。

また、シャンパンタワーのモデルでは、シャンパンが一番下の段の全てのシャンパングラスに行き渡った場合、全てのシャンパングラスには、当然、同じ量のシャンパンが配られます。つまり、一番上のシャンパングラスが受け取るシャンパン(利益)の量も一番下の段のシャンパングラスが受け取るシャンパンン(利益)の量も同じです。しかし、実際には、上記のように人や企業が受け取った利益を全て消費するのではなく、必ず貯蓄や内部留保に回すため、保有する資産(お金)が上の段から順番に大きくなっていくことと、下の段に行くほど上の段に比べその経済的階層に属する人々の数(シャンパングラスの数)が増えていくため、一人が受け取る利益の量は経済的に下の段に行くほど少なくなります。つまり、たとえ、トリクルダウンで利益がすべての人々に行き渡ったとしても、結局、貧富の差、経済格差はより広がることになります。以上が、トリクルダウンが持つ本質的な欠陥であり、その上、アベノミクスはこの欠陥をさらに助長し経済格差を拡大させています。

アベノミクスの経済政策がトリクルダウンの持つ本質的な欠陥をさらに拡大する理由

アベノミクスによる経済政策の一番の柱は、金融緩和による円安誘導により、輸出企業の輸出利益の増加を狙ったものです。確かに、これにより、輸出金額が増え、輸出企業の収益は増加しました。しかし、これはあくまでも、円安による効果であり、企業にとっては実際の輸出製品の量が増えたわけではありません。つまり、売り上げは増えたが、決して自社の製品の需要が伸びて利益が出たものではなく、日本の大企業の賢い経営者たちが、これで景気が良くなったとは決して考えません。反対に、バブル期とその崩壊後の悪夢を思い出させ、実態と合わない行き過ぎた利益は、いずれ必ずその反動が来ると、その時のために備えようとするはずです。その結果が、現在の、大企業における内部留保の増大です。企業は、アベノミクスがもたらした、「アベノミクスバブル」というべき現在の経済状況をしっかり理解し、その崩壊を予想し、内部留保を増やすことでその時に備えているのです。つまり、アベノミクスによる行き過ぎた金融緩和による円安誘導は「アベノミクスバブルの崩壊」という新たなリスクを大企業の経営者たちに認識させ、企業の内部留保の増加という、トリクルダウンが持つ本質的な欠陥をさらに増強しているのです。

アベノミクスの経済政策がうまくいかない他の理由

政府は大企業が利益を上げれば設備投資が増えると考えていますが、これは、今の状況ではほとんど無理です。なぜならば、上記のように、企業の利益は上がっていても、商品(製品)の需要が増えているわけではないからです。需要が増えていない(反対に減っている)のに設備投資をする必要はありません。企業に設備投資をさせるために必要なことは、とにかく一般消費を増やすことです。また、大企業の下請け企業では、大企業の売り上げが輸出額の増加で増えたとしても、生産している製品の量は変わらないのですから、大企業からの仕事の受注量が増えるはずはありません。反対に、受注製品を作るための原料などを輸入していた場合は、円安のためその輸入コストが増加してしまい、かえって利益が少なくなってしまいます。そのため、大企業と中小企業との利益の格差がますます大きくなり、そこに勤める人たちの経済格差も大きくなってしまいます。

以上のことより、アベノミクスにより一般庶民の景気が良くなることはほとんどなく、単に、国民の経済格差を拡大してしまうことが分かりました。大企業や富裕層を儲けさせ、そのおこぼれで国全体の景気を良くしようという考えは、結局は机上の理論でしかなく、実効性がないばかりか、やり方によっては、かつてのような、経済の実態と一致しない行き過ぎた好景気(バブル)を引き起こす危険性のあることも判明しました。これ以上アベノミクスを推進するのは非常に危険なことです。今後は、大企業や富裕層が現在持っている利益を、「アベノミクスバブル」が崩壊する前に、一般庶民のために直接活用し、個人消費を増やすことにより国全体の景気を良くすることが必要だと考えます。

2016年6月25日

2.MMTについて

一般人のためのMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)基礎知識

要約

コロナ終息後の日本経済の復興には、財政健全化を必須条件をしない新たな経済理論であるMMTに基づく経済政策が不可欠であり、そのためには、MMTが経済の専門家に認められることが必要ですが、それ以上に、国民がMMTを認知・支持し、政府に働きかけることが不可欠です。

MMTにより理論的に導き出される、「日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」という事実は、誰にも否定できませんが、MMTに基づく経済政策は、その時々の経済状況や社会情勢などにより最適な政策が変化します。そのため、MMTに懐疑的な専門家の多くは、MMTに基づく経済政策の策定が難しく、時に、その政策の実行により経済をより悪化させたり混乱させたりする恐れがあることを批判し、MMTを否定しています。しかし、MMTに基づく経済政策の問題を理由に、MMTを否定することは間違いです。

MMTの理解には、理論であるMMTとそれに基づく経済政策を混同せず、切り離して考える事が重要です。
MMTにより私たちは、経済政策を行うための、基礎となる「新しい指針」を手に入れたのです。
今後の経済学は、MMTによって得られた「新しい指針」に基づき、どのような経済政策を行うべきかについて研究し議論するもの(MMT経済学)になっていくべきだと考えます。

はじめに

現在(2020/6/7)日本は20年以上も続くデフレ不況に加え、今回のコロナ危機による株価の暴落やGDPの落ち込み、社会的・経済的自粛の影響による収入の減少等により、さらなる経済不況に陥り、多くの国民が経済的困窮に苦しんでいます。

この経済的困窮から国民を救い国の経済を立て直すためには大胆な財政出動が必要であり、政府は、国民への10万円の一律給付や雇用調整助成金や持続化給付金の給付などを行っています。しかし、そのために必要な財源の確保には大規模な国債の追加発行が必要なため、国民の中にはすでに、コロナ終息後の増税を心配する声が上がり始めています。

デフレ不況から完全に脱し切れていない今の状況で増税をすることは、さらなるデフレを引き起こすことになりますが、政府が今までと同じ様に財政健全化を目指す限り、増税やさらなる緊縮財政は避けられず、デフレ時にインフレ対策のための経済政策を行うという矛盾から抜け出すことはできず、景気回復どころか、さらなる景気悪化が懸念されます。

そのため、コロナ終息後の日本経済の復興には、今までとは全く考え方の違う、財政健全化を必須条件としない新たな理論に基づく経済政策が必要です。

幸い、近年、財政健全化を必須条件としない経済理論として、MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)が脚光を浴びています。

けれども、残念ながら、MMTにより理論的に導き出される、「日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」という否定することの出来ない事実は、経済を良く知らない一般人はもとより、多くの経済学者からも批判され、現在まで政府の経済政策に取り入れられることはありませんでした。

しかし、現在、政治家の中にMMTに基づく経済政策を支持する人達がいらっしゃり、その政治勢力を拡大することができれば、政策にMMTを取り入れることができます。そのためには、多くの国民がMMTを理解し,MMTを支持する政治家を応援する必要があります。

つまり、日本の経済復興のためには、経済的な知識があまりない一般の国民がMMTを理解し、支持することが必要なのです。
以下、一般人がMMTを理解するための基礎知識について解説します。

MMTを理解するために大切なこと

MMTを理解するために大切なことは、理論であるMMTとそれに基づく経済政策を混同しないことです。
例えば、「日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」は、MMT(理論)により導き出される事実であり、誰が考えても、先入観を排除し順を追って理論的に考えれば、同じ結論になります。
一方、MMT(理論)に基づく経済政策(国債の発行額、増税、減税、財政出動等)は、その時々の経済状況や社会情勢などにより最適な政策が変化し、政策を間違えれば経済は悪化します。
そのため、MMTに懐疑的な専門家の多くは、MMTに基づく経済政策の策定が難しく、時に、その政策の実行により経済をより悪化させたり混乱させたりする恐れがあることを批判し、MMTを否定しています。
しかし、MMTに基づく経済政策の問題を理由に、理論であるMMTを否定することは間違いです。繰り返しになりますが、MMTの理解には、理論であるMMTとそれに基づく経済政策を混同せず、切り離して考えることが重要です。

MMTの結論

MMTにより理論的に導きだされ、最も重要で、MMT経済学の前提条件ともなる結論は、

① 日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。

であり、この事実から以下の事が導きだされます。

② 経済の健全化に財政健全化は必ずしも必要ではない。

③ 国債発行による収入を国の「新たな財源」として利用できる。

④ 税金の主な役割は財源の確保ではなく物価の調整である。

以上の4つの結論は、すべて理論的に導き出された誰にも否定する事のできない事実であり、比較的簡単に理解できます。
以下、それぞれについて説明していきます。

「① 日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」の説明

「日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」という、すぐには信じられない夢のような、結論は、貨幣発行のシステムを知れば必然的に導き出されます。
それは、日本(政府+日銀)が円を自由に発行できるからです。

ちょっと考えれば当たり前のことです。
日本が円で借金をした場合、例え返済時に返済するお金が足りなかったとしても、その場合は自分で円を発行することができるのですから、返済できなくなる事は絶対にありません。そのため、日本は円建ての国債発行で返済不能になる事はあり得ないのです。

MMTを否定する人達は、「たとえ、日本がいくら借金をしても(円を発行しても)大丈夫だとしても、際限なく円を発行したらハイパーインフレーションを起こしとんでもない事に成る。」と言います。私もそれは事実だと思います。だからこそ、MMTに基づきどのような経済政策を行うかが大切なのです。

「② 経済の健全化に財政健全化は必ずしも必要ではない。」の説明

政府がいくら国債を発行し借金をしても返済できなくなる事がないのですから、借金があり、増加したとしても、そのことにより、経済が悪化するとは限りません。つまり、「経済の健全化に財政健全化は必ずしも必要ではない。」のです。
しかしこれは、財政健全化を目指す経済政策を行ってはいけないという意味ではありません。経済の状況に応じて、財政健全化を目指す(ただしくは、結果的に財政健全化になる)政策と財政健全化を目指さない政策とを正しく選択し行う必要があるという意味です。

この「経済の健全化に財政健全化は必ずしも必要ではない。」という事実は、今まで政府が行い、多くの国民も支持(しかたなく、消極的に)してきた、財政健全化を必須とする経済政策とは全く違う考え方であり、すぐには理解されにくいと考えられます。以下、財政健全化を必須とする経済政策と必須としない経済政策について具体的に説明します。

財政健全化を必須とする経済政策と必須としない経済政策

政府が行っている財政健全化を必須とする経済政策(緊縮政策)は、家計と国家財政を同じように考えるため、一般人にも理解しやすく心情的にも支持しやすいものです。
MMTを知る前は、私も緊縮財政は仕方ないと思っていました。景気の悪いときは節約が大切。そう思い込んでいました。
しかし、個人と国とでは全く違います。
不景気の時に個人が節約をすることは正しいことです。しかし、デフレ不況の時に国民全体が節約に励んでいては、景気は悪くなる一方です。

節約は、個人(ミクロ)の経済活動としては、正しいことですが、国全体(マクロ)の経済活動としては、国民消費が伸びないためにデフレは回復せず、益々景気が悪化してしまう間違った行動です。
ミクロの正しい行動がマクロとしても正しいとは限らないのです。これを「合成の誤謬」というそうです。

日本は20年以上もデフレによる不景気に苦しんできました。
政府はいろいろと対策をし、国民も痛みに耐えつつ政府に協力し、消費税の増税や緊縮政策に協力してきました。しかし、結局景気は良くなりませんでした。

当たり前です。
今まで、政府が行ってきた緊縮財政や消費増税などの景気対策は、インフレ時に行う対策で、デフレ時には反対に財政出動や減税を行わなければならなかったのです。我々国民は、政府の間違った経済政策のせいで20年以上も苦しんできたのです。

財政出動により公共事業を増やし減税をし、国民の収入を増やして国民消費を増加させる事がデフレ時の正しい経済政策である事は、経済の専門家には十分分っているはずです。それにも関わらず、20年以上も緊縮政策を行ってきたのは、財政健全化のためです。何よりも財政健全化が大切だったのです。財政健全化をしない限りいずれ国が財政破綻を起こすと信じ切っていたのです。

しかし、MMTにより「経済の健全化に財政健全化は必ずしも必要ではない。」ことが判明しました。
今後は、政府が財政健全化を必須としない経済政策を取ることにより、インフレ時は財政健全化をもたらす増税や政府支出の削減などの緊縮財政、デフレ時は財政健全化を目指さない減税や政府支出の増加などの積極財政を行うことができるのです。

「③ 国債発行による収入を国の「新たな財源」として利用できる。」の説明

現在、国の財源は主に税金により支えられています。しかし、いくら国債を発行し借金をしても返済できなくなる事がないのですから、国債発行による収入を国の財源として活用しても、必ずしも財政破綻を起こしません。そのため、国は国債発行で得られる収入を税金以外の「新たな財源」として活用できるのです。

しかし、この「新たな財源」も、政府が無作為に国債を発行し際限なく利用したのでは、インフレやモラルハザード(労働に対する意欲の減退)が起き、経済が混乱する恐れがあります。そのため、「新たな財源」を利用するための経済政策は経済状況および社会情勢に応じて適切に行われることが必要となります。

「④ 税金の主な役割は財源の確保ではなく物価の調整である。」の説明

MMTにより税収以外の「新たな財源」を手に入れた社会では、税金は財源としての役割よりも、政府が国の経済状況や社会情勢を調整するための政策手段としての役割がより重要になりますが、そのなかで一番重要なものは物価の調整機能です。

デフレ時の対応として、政府が「新たな財源」を利用し、公共投資を増やし減税を行い市場にお金を供給すると、市場の需要が拡大しやがて供給能力を超えはじめ、インフレになります。軽度のインフレは経済成長に望ましいのですが、インフレになったにもかかわらず公共投資や減税を続けるとインフレが止まらなくなり、ついにはハイパーインフレに陥り、財政破綻となってしまうでしょう。

この恐ろしいハイパーインフレに陥らないように、早い段階でインフレを抑えるために必要な政策が増税です。政府が、投資や消費にかかる税を重くすれば、市場のなかのお金が減り、需要が減少し物価が下がりインフレから脱却します。
もちろん、経済はそんなに単純なものではありませんが、あえて簡単にまとめると、インフレを抑えたければ増税し物価を下げ、デフレから脱却したければ減税し物価を上げれば良いのです。

なお、税が持つ、物価調整以外の政策手段の例としては、従来から、富の再分配による格差社会是正のための税制としての、累進課税や相続税、消費税導入前に存在した贅沢品にのみ課税する物品税などがあり、国の政策を実現するための税制としては、国内産業を保護するための関税や二酸化炭素の排出の抑制のための炭素税や喫煙による健康被害を抑えるためのたばこ税の増税などがあります。

まとめ

以上、経済の知識があまりない一般の国民の皆様に、MMTを理解してもらうために必要な基礎知識を、MMTが導き出す4つの結論に重点をおき解説してきました。とりあえずは、解説した4つの結論(事実)を理解すれば、MMTの正しさと今後の日本の経済復興での必要性が納得してもらえると考えます。
再度繰り返しに成りますが、MMTの理解には、MMTから導き出される結論(事実)とそれに基づく経済政策を混同せず、切り離して考える事が重要です。

MMTにより導き出された4つの結論は否定する事の出来ない事実であり、私たちは、経済政策を行うための、基礎となる「新しい指針」を手に入れたのです。
今後の経済学は、MMTによって得られた「新しい指針」に基づき、どのような経済政策を行うべきかについて研究し議論するもの(MMT経済学)になっていくべきだと考えます。
今後、日本において、MMT経済学が専門家だけでなく、国民に広く理解・支持され、MMT経済学に基づく経済政策が実行されることを強く願います。

2020年6月7日

*2021年10月15日 誤記修正

一般人のためのMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)基礎知識Ⅱ

~金本位制と国債本位制~

要約

日本の様に、政府の実質的子会社である中央銀行1)が通貨発行権を持ち、政府が国の予算の不足分を自国通貨建ての国債発行で補っている国の通貨制度は、実質的に国債本位制となります。
国債本位制とは、その国の中央銀行が発行する貨幣が、その国の政府が発行し中央銀行が保有している国債に裏付けられているという貨幣制度2)であり、国債本位制における国債は、金本位制の金に相当します。

金本位制においては、国の保有する金の量はその国の経済の大きさを表し、経済規模が大きな国ほど金の所有量が多くなります。そのため同様に、国債本位制の国においては、国債発行残高の大きさがその国の経済の大きさを表し、経済成長を続け経済規模が大きくなって行くに従いその残高が増加していくと考えられます。
本解説では、まず、国債本位制の国の国債発行残高がその国の経済規模を表すことを証明し、次に、日本の貨幣制度が実質的に国債本位制であること(制度的に国債本位制が実施されていること、国債本位制が経済の悪化や財政破綻を招くことなく維持されていること)を証明しました。

その結果、国の借金であり、将来世代に「つけ」を残すことになると広く信じられている日本の国債発行残高は、実は、日本の経済規模の大きさを表すものであり、現在、政府が行っている、財政健全化をめざしできる限り国債の発行を減らそうとする経済政策は、日本の経済成長をさまたげる、間違った、やってはいけない政策だと判明しました。したがって、今後、政府が取らなければならない正しい経済政策は、財政健全化ではなく、経済を悪化させることなく、できるだけ多くの国債を発行することであり、政府に対し、現在の財政健全化を目指す経済政策の間違いを認め、速やかに経済政策を変更するよう求める必要があることが明らかになりました。

はじめに

MMTの正しさを分かってもらうためには、国債が国の借金ではない事を理解してもらう必要があると考え、自分なりに分かりやすいモデルや寓話などを考えてきましたが、納得できるものがなかなかできずにいました。そのため、今回、改めてMMT(現代貨幣理論)の出発点となる、現代の貨幣制度について勉強しなおしました。その結果、現在の日本の貨幣制度が事実上の国債本位制であり、日本が国債本位制を維持している限り、国債が金本位制の金に相当し、国債発行残高が、国の経済規模を表すことを知りました。

金本位制においては、国の保有する金の量はその国の経済の大きさを表し、経済規模が大きな国ほど金の所有量が多くなります。これを国債本位制の国に当てはめると、国債発行残高がその国の経済の大きさを表し、経済成長を続け経済規模が大きくなって行くに従い国債発行残高が増加していく事になります。つまり、日本が本当に国債本位制の国であるならば、現在、国の借金だと考えられている国債の発行残高は、実は、日本の経済規模の大きさを表すものとなるのです。したがって、現在、政府が行っている、財政健全化をめざしできる限り国債の発行を減らそうとする経済政策は、国の経済成長をさまたげる、間違った、やってはいけない政策となり、政府が取らなければならなかった正しい経済政策は、財政健全化ではなく、経済を悪化させることなく、できるだけ多くの国債を発行することとなるのです。
以下、その詳細を一般人にも理解しやすいようにできるだけ簡単に解説します。
なを、本解説では、貨幣とはモノやサービスとの交換に用いられる「お金(おかね)」のことをさします。貨幣は通貨(流通貨幣)とも呼ばれ、現金通貨と預金通貨に大別されます。現金通貨は紙幣と硬貨(補助紙幣)で、預金通貨は普通預金や当座預金などの決済口座です3)

また、この後の解説は、何とか分りやすく、簡単な言葉で説明しようとしたため、かえってくどく、だらだらとしたものとなってしまいました。時間のない方や、途中で飽きてしまった方などは、最後の「まとめ」を先にお読みになり、その後、本文を読まれることをお勧めいたします。

金本位制と国債本位制

貨幣が価値を持つのは、みんなが欲しがる価値のあるもの(金、銀、国債など)といつでも交換できることを国が保証しているからです。
金本位制ではそれが金であり、国債本位制ではそれが国債となります。ひょっとすると多くの人は、貴金属でありそれ自体に価値がある金と、債券(紙)でありそれ自体に価値のない国債を同等とするのはおかしいと考えるかもしれません。しかし、実は、金が持つ価値も国債が持つ価値も人間の思い込みがもたらすものでしかないのです。人間が生物として生命を維持するうえでは、金も債券(紙)もほとんど価値はありません。金が価値を持つのは、それが人間が生きていくうえで必要な物(食料、衣服、住居など)と交換できるとほとんどの人間が考え(信じ)ているからです。同じように国債も人間が生きていくうえで必要な物(食料、衣服、住居など)と交換できるとほとんどの人間が考え(信じ)ているならば、金と同じ価値を持つのです。この点で、両者の価値はどちらも信用により生み出される幻想であり、違いはないのです。

金本位制とは

金本位制とは、国が、中央銀行が発行した貨幣と同額の金を保管しておき、いつでも金と貨幣を交換することを保証する制度です。そのため、中央銀行が発行できる貨幣の量は金の保有量により決定されます。したがって、国の保有する金の量がその国の中央銀行が発行可能な貨幣の量を表し、それがその国の潜在的な経済の大きさを表します。つまり、金本位制の国では金の保有量がその国の経済規模を決定するのです。そのため、経済が成長し経済規模が大きくなってくると、経済規模に合わせ貨幣の量を多くしようとしても金の保有量が足かせとなり、それ以上貨幣を発行できずそれ以上の経済成長ができなくなってしまいます。これが、金本位制が廃止され、金の保有量とは無関係に法律で定められた通貨制度にもとづいて、国(中央銀行)が貨幣の量を管理する管理通貨制度へと移行した理由です。

国債本位制とは

国債本位制は管理通貨制度の一形態であり、その国の中央銀行が発行する貨幣が、その国の政府が発行し中央銀行が保有している国債に裏付けられているという貨幣制度です。簡単に言うと、政府が国債を発行し中央銀行に渡すことで、それと同じ額の貨幣を中央銀行が発行する貨幣制度です。そのため、中央銀行が発行した貨幣の額は政府が発行した国債の額と一致し、国の経済規模を表す中央銀行が発行し国内で流通している貨幣の額は、政府が発行した国債の発行残高と同じとなります。つまり、国債本位制の国では国債の発行残高がその国の経済規模を決定するのです。

金本位制と国債本位制の解説は以上ですが、これにMMTの考え方を加味し導き出される結論は、「国債本位制の国では、国債の発行残高がその国の経済規模を決定する。そのため、国債本位制の国で経済成長を続けるためには国債発行残高を増やし続けることが必要であり、国債発行を抑えるために財政健全化を目指す経済政策は、その国の経済成長を阻害し経済力を低下させる間違った政策である。正しい経済政策とは、いかに経済悪化をもたらさずに国債発行額を増やしていくかを目指す経済政策であり、そのために必要なのが、MMTによって得られた「新しい指針」に基づき、どのような経済政策を行うべきかについて研究し議論するMMT経済学である。」となります。

しかし、以上の解説を読み、「国債本位制では、政府が発行した国債の発行累計額と中央銀行が発行した貨幣の額が同じになるとしても、国債という借金の代わりに貨幣を発行するのだから、実際は、資産である貨幣の額と負債である国債の発行累計額が相殺し合い、国の真の経済規模を表す、資産から負債を差し引いた額である国の財産は増加せず、国債の発行残高が国の経済規模を表すことは成り立たない。また、そもそも、貨幣の新規発行は中央銀行のみだが、通常の銀行が貸し出しを行う(信用創造)ことで銀行預金という貨幣を創造できるのだから、国債発行以外でも国の貨幣は増加する。」と主張する人が少なからずいると思います。確かに、国の経済規模をその国が保有する貨幣の額で表すやり方は、その国が持つ負債の額が考慮されていないため、国に負債がない場合にしか成り立ちません。実際は、政府が国債を発行しそれを中央銀行に引き受けさせるやり方では、政府の負債と中央銀行の債権とが相殺し合うため国としての負債は考慮する必要はないため財産の増加が起き、銀行による信用創造では、貨幣の増加と同額の負債が発生するため財産の増加は起きないですが、これを理解するのが難しくそれが誤解を生む原因となっていると考えます。そのため、今後は国の経済成長を国の財産を指標として解説していきます。

金本位制と国債本位制における国の財産の変化

国の経済規模の変化を金本位制と国債本位制とで比較するために、両制度における貨幣の発行とその後の財産の変化を比較します。
  まず、金本位制における貨幣の発行とその後の財産の変化を具体的に考えます。
①金本位制度での貨幣発行は、政府が保有する金を中央銀行に渡し、中央銀行がその金と同額の貨幣を発行し政府に渡すことで行われます。
具体的には、政府が金を100万円分保有していて、新たに10万円の貨幣を調達するために中央銀行に貨幣を発行してもらう場合について考えると、以下の様になります。
まず、政府が中央銀行に10万円分の金を渡し、その代わりに、中央銀行が10万円の貨幣を発行し政府に渡します。
すると、貨幣発行後の財産は、政府は資産が金90万円と貨幣10万円となり、中央銀行は資産が金10万円となります。政府と中央銀行を合わせた国全体の財産は、資産が金100万円、貨幣10万円の合計110万円となり、新たに発行された貨幣10万円分が増えることになります。

次に、国債本位制における貨幣の発行とその後の財産の変化を具体的に考えます。
②国債本位制での貨幣発行は、政府が国債を発行しそれを中央銀行に渡し、中央銀行がその国債と同額の貨幣を発行し政府に渡すことで行われます。
具体的に、①と同じく政府が金を100万円分保有していて、新たに10万円の貨幣を調達するために中央銀行に貨幣を発行してもらう場合を考えると、以下の様になります。
まず、政府が10万円分の国債を発行しそれを中央銀行に渡し、その代わりに、中央銀行が10万円の貨幣を発行し政府に渡します。
すると、貨幣発行後の財産は、政府は資産が金100万円と貨幣10万円で負債が国債発行残高(債務)10万円となり、中央銀行は資産が国債(債権)10万円となります。政府と中央銀行を合わせた国全体の財産は、資産である金100万円と貨幣10万円と国債(債権)10万円の合計120万円から負債である国債発行残高(債務)10万円を差し引いた合計110万円となり、新たに発行された貨幣10万円分が増えることになります。

①と②を比較してみると、貨幣発行後の国全体の財産は共に新たに発行した貨幣(10万円)の額だけ増えおり、それは、それぞれ①が政府が中央銀行に渡した金の額、②が政府が発行し中央銀行に渡した国債の額と一致しています。つまり、金本位制でも国債本位制でも、政府が中央銀行に貨幣を発行してもらうために渡したもの(金本位制では金、国債本位制では国債)の額だけ国の財産が増えるのです。したがって、国債本位制の国では、政府の国債の発行額が国の財産の額を決定し、その国の経済規模を表すことになるのです。
しかし、上記の事実を示されても、「①は政府がもともと所有していた資産である金を渡して新たに貨幣を発行してもらったのだから、その分財産が増えるのは理解できるが、②は政府が借金である国債を発行しそれを渡して新たに貨幣を発行してもらったのだから、結局、負債である国債発行残高10万円と資産である貨幣10万円が相殺されるため財産の増加は生じないはずであり、納得できない。」と感じている人がまだいらっしゃると思います。

しかし、事実は①も②も発行された貨幣の額(10万円)分財産は増えており、この事実を否定することはできません。事実に納得できないのは誤解があるからです。そして、この誤解が、国債発行残高が国の財産をあらわし、国が経済成長していくためには国債発行残高を増やし続ける必要があるという事実を多くの人が、本能的に、否定し受け入れることが出来ない最大の原因なのです。
以下、この誤解を解くために、政府が政府の負債となる国債を中央銀行に渡して貨幣を発行してもらい、借金をして貨幣を入手したにも関わらず、国債の額だけ国の財産が増える理由を解説します。

政府が貨幣調達のために国債を発行すると財産が増えるわけ

政府が国債を発行し、それを中央銀行に渡し中央銀行が貨幣を発行すると国の財産が増加する理由は簡単です。それは、貨幣の発行を、通貨発行権を持つ中央銀行が行っているからです。
「そんなことは初めから分っている。」という声が聞こえてきそうな理由で心苦しいのですが、これが全てです。多くの人がこの簡単な事実の本当の意味を理解せず、誤解しているのです。以下、具体的に説明します。

政府が貨幣を調達するために、国債を発行しそれを中央銀行に渡し中央銀行から貨幣を受け取ることは、つまり、政府が中央銀行から借金をするという事です。通常の借金の場合、借りた方も貸した方も財産の増減はなく、当然両者の合計財産の増減も起こりません。しかし、政府が中央銀行に借金をする場合は、中央銀行が貨幣を発行しそれを政府に渡すため、発行した貨幣の額だけ、中央銀行の資産が増えます。そのため、政府と中央銀行の合計財産も発行された貨幣の額だけ増えることになります。つまり、当たり前ですが、借金をする場合に新たな貨幣の発行がある取引では財産が増え、新たな貨幣の発行のない取引では財産が増えないのです。

では、具体的に、借金時に貨幣の新規発行がある場合とない場合を比べてみます。
  まず、通常の、貨幣の新規発行がない借金の場合を考えます。
③50万円持っているAが100万円持っているBから10万円借金する場合は以下の様になります。
Aが10万円の借用証書を書いてBに渡し、その代わりにBが自分の持っているお金(貨幣)のなかからAに10万円を渡します。
すると、借金成立後の財産は、Aは資産である貨幣が借金してBから受け取った10万円増えて60万円となり、その代わりにBから借りた10万円が債務(借金)となり負債が10万円となります。資産から負債を差し引いた財産は50万円となり取引の前後で変化はありません。Bは資産のうちの貨幣がAに貸した10万円減り90万円となりますが、Aに貸した金額分だけ貸出金が増えるため債権(貸出金)が10万円となり財産は合計100万円となります。したがって、Bも取引の前後で財産の変化はなく、当然、AとBの合計財産の増減も起こりません。また、取引後のAとBの所有する貨幣も60万円+90万円の合計150万円で取引の前後で変化はありません。

次に、銀行預金を50万円持っているAが個人ではなく、預金(預金通貨)を創造することが出来る銀行から10万円借金する場合を考えます。
④B銀行に預金を50万円持っているAが、B銀行から10万円借金する場合は以下の様になります。
Aが10万円の借用証書(金銭消費貸借契約書)をB銀行に渡し、B銀行がAの預金口座に10万円の入金を記帳します。
すると、借金成立後の財産は、Aは資産である預金が60万円となり、貨幣である預金通貨が10万円増えます。しかし、その代わりに銀行から借りた10万円が債務(借金)となり負債が10万円となるため、資産から負債を差し引いた財産は50万円となり取引の前後で変化はありません。B銀行は、資産である貸出金がAに貸した金額分増えるため債権が10万円増えますが、銀行にとっての負債である、AがB銀行に保有する預金が貸し出した金額分(10万円)増えるため資産と負債が相殺し、取引の前後で財産の変化はおこりません。したがって、③とは異なり、B銀行による預金の創造(信用創造)により新たな貨幣(預金通貨)が創造されるため貨幣の量は増加しますが、その分B銀行の負債も増えるため、結局、AとB銀行の合計財産の増減は③同様起こりません。

最後に、お金を貸し出すBに通貨発行権があり、取引に新規の貨幣発行がある場合の借金を考えます。
⑤50万円持っているAが、通貨発行権と100万円の貨幣を持つBから10万円借金する場合は以下の様になります。
Aが10万円の借用証書を書いてBに渡し、その代わりに、Bが通貨発行権を使い新たに貨幣を10万円発行しそれをAに渡します。
すると、借金成立後の財産は、Aは資産である貨幣が借金してBから受け取った10万円増えて60万円となり、その代わりにBから借りた10万円が債務(借金)となり負債が10万円となります。資産から負債を差し引いた財産は50万円となり取引の前後で変化はありません。これは③の場合と全く同じです。しかし、Bは資産のうちの貨幣は、Aに貸した10万円が通貨発行権を使い新たに発行した貨幣だったため、増減はなく100万円のままですが、Aに貸した金額分だけ貸出金が増えるため債権(貸出金)が10万円となり財産は合計110万円となります。したがって、Bは③、④の場合とは異なり、取引後の財産が新たに発行した通貨分(10万円)増加します。そのため、AとBの合計財産も10万円増加します。また、取引後のAとBが所有する貨幣も60万円+100万円の合計160万円となり、当然ですが、Bが新たに発行した貨幣(10万円)分増加します。

③、④、⑤により、借金における通貨発行権の有無とそれに伴う取引前後の財産の変化を明らかにしてきましたが、実に当たり前で簡単な、解説とは言えないような説明だったと思います。しかし現実は、多くの人が「借金」という言葉に引っ張られ、政府の、通貨発行権を持つ中央銀行からの借金を、通貨発行権を持たない者からの借金と混同し、「通貨発行」という言葉に引っ張られ、中央銀行の通貨発行権を使用しての新規貨幣の発行と、銀行の信用創造による預金通貨の発行(創造)とを混同し誤解してしまっているのです。新規に貨幣が発行されれば国の資産である貨幣が増え、その結果国の財産が増えるのは当然ですが、たとえ、銀行の信用創造により預金通貨が増加しても、中央銀行が新規に貨幣を発行しない限り、国の財産は増えないのです。箱の中の貨幣をどのように分けたり移動したりしても、貨幣は増えも減りもしないし(③より)、銀行が信用創造により預金通貨を創造し貨幣を増加させても、箱の中の財産は決して増えないのです(④より)。中央銀行が新たな貨幣を発行し、箱の中に入れた時にのみ箱の中の財産が増えるのです(⑤より)。

以上、金本位制と国債本位制を比較することにより、金本位制における金の保有量と国債本位制における国債発行残高がそれぞれ、国の経済規模を表すことが示され、国債本位制の国では、国債が金本位制の国の金に相当することが理解できたと考えます。
そのため、日本が国債本位制の国であるならば、日本の国債発行残高が日本の経済規模を決定することになり、経済成長をするためには国債を発行し続ける必要があることになります。したがって、現在、政府が行っている、財政健全化をめざしできる限り国債の発行を減らそうとする経済政策は、国の経済成長をさまたげる、間違った、やってはいけない政策であり、政府が取らなけれない正しい経済政策は、財政健全化ではなく、経済を悪化させることなく、できるだけ多くの国債を発行することとなります。

ただし、これはあくまでも、日本が国債本位制の国である場合の話です。いくら、国債本位制の国では国債の発行残高がその国の経済規模を表すと証明できても、日本が国債本位制の国であることが証明できなくては、日本の国債発行残高が日本の経済規模を表すとは言えません。そのため、以下、日本が国債本位制であることの証明を行います。

日本が国債本位制であることの証明

日本が、国債本位制の国であると証明するための条件は大きく二つあります。一つは、ⅰ)制度的に国債本位制が実施されていることで、二つ目は、ⅱ)国債本位制が経済の悪化や財政破綻を招くことなく維持されていることです。
以下、それぞれについて順番に解説します。

ⅰ)日本が制度的に国債本位制が実施されていることの証明

国債本位制は、その国の中央銀行が発行する貨幣が、その国の政府が発行し中央銀行が保有している国債に裏付けられている貨幣制度で、政府が国債を発行し中央銀行に渡すことで、それと同じ額の貨幣を中央銀行が発行する貨幣制度です。しかし、中央銀行が直接国債を引き受け政府へ資金供与を始めると、その国の財政節度を失わせ、貨幣の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを引き起こす恐れがあります。そのため、日本を含め、先進各国で中央銀行による国債引き受けが制度的に禁止されており、日本では、日本銀行による国債の引き受けは、財政法第5条により、原則として禁止されています(これを「国債の市中消化の原則」」といいます)7)

したがって、日本では、政府が貨幣を調達するために国債を発行すると、通常は、銀行などの金融機関が国債を買い入れ、その代金を日本銀行の当座預金を通して、政府に供給しています。しかし、この貨幣調達の方法では、政府が国債を発行しても日本銀行の新規貨幣発行は直接的には行われておらず、上記で示した国債本位制の要件を満たしていません。そのため、「日本の様に、政府の実質的子会社である中央銀行が通貨発行権を持ち、政府が国の予算の不足分を自国通貨建ての国債発行で補っている国の通貨制度は、実質的に国債本位制となります。」と主張されても、納得できないのは当然だと考えます。
そのため、以下、日本の貨幣制度が国債本位制であるかどうかを判断するために、現在の日本の国債発行の具体的な方法と、政府が国債を発行しそれを中央銀行に渡し中央銀行がその国債と同額の貨幣を発行し政府に渡す方法とを比較検討し、日本の貨幣制度が実質的に国債本位制であることを証明したいと考えます。

日本における国債発行

日本における国債発行の具体的方法を示します
⑥日本における政府の国債発行は「国債の市中消化の原則」に従い以下のようにおこなわれます。
(1)政府が、政府支出のために国債を発行すると、銀行・証券会社・生損保などの金融機関(以後代表し銀行と表示します)がそれを購入します。すると、銀行保有の日銀当座預金は、政府の日銀当座預金勘定に振り替えられます(銀行が日本銀行に開設している当座預金から購入した国債の代金が差し引かれ、政府が日本銀行に開設している当座預金に振り込まれます)。
(2)政府は、公共事業などの政府支出の支払いのために、政府小切手を発行し請負企業などに代金を支払います。
(3)企業は、受け取った政府小切手を自己の取引銀行に持ち込み、政府からの取り立てを依頼します。
(4)政府小切手を受け取った銀行は、相当する金額を企業の預金口座に記帳すると同時に、代金の取り立てを日本銀行に依頼します。
(5)日本銀行は、政府保有の日銀当座預金の該当額(政府支出額、つまり政府支出のために政府が発行した国債の金額)を、銀行保有の日銀当座預金に振り替えます。
(6)その結果、政府保有の日銀当座預金の金額は国債発行前の金額に戻り、銀行保有の日銀当座預金の金額も、国債購入前の金額に戻ります。そのため、銀行は再び国債を購入することができるようになります。
(7)以下、(1)から(6)を繰り返します。

以上が、日本における政府による国債発行の具体的方法ですが、そのプロセスにおいて、日本銀行による貨幣の新規発行は行われておらず、国全体では財産の増加はありません。しかし、貨幣は、(4)において企業の預金が増加した分、預金通貨として増えており、その原資は(2)で政府が発行した、国債発行で得た貨幣(日銀当座預金)を担保とした、政府小切手となっています。つまり、現在日本で行われている国債の市中消化では、国債が貨幣増加の裏付けとは成っていますが、それが財産の増加とは繋がっていないのです。そのため、日本の貨幣制度が国債本位制であるという事はできず、実質的に国債本位制であるいう主張についても、簡単にはその正否を判断することはできません。
そのため、まず、日本の通貨制度が実質的に国債本位制であるかの判断をするための前提として、国債本位制が持つ一般的な定義を検討し、それに基づき日本で実質的国債本位制が成立しているかどうかを考察します。

国債本位制の一般的定義

繰り返しになりますが、国債本位制とは、その国の中央銀行が発行する貨幣が、その国の政府が発行し中央銀行が保有している国債に裏付けられているという貨幣制度で、本来のもっとも基本的な国債と貨幣の関係は、政府が国債を発行し中央銀行に渡すことで、それと同じ額の貨幣を中央銀行が発行するというものです。そのため、その国の財産である中央銀行が発行した貨幣の累計額は、政府が発行した国債の発行累計額と同じとなり、国債本位制の国では国債の累計発行額がその国の経済規模(財産)を表すことになります。
これを、国、政府及び中央銀行などとは関係なく一般的に成り立つように言い換えると、「国債本位制とは、国債が貨幣発行の裏付けとなっているため、国債が発行されるとそれと同額の貨幣が発行され、発行された貨幣分、資産である貨幣の額が増加し、その結果、国債発行額分財産が増加し経済規模が大きくなる(経済成長する)制度である。」と成ります。

日本で実質的に国債本位制が成立する条件

次に、上記の国債本位制の一般的な定義に基づき、日本で実質的に国債本位制が成立する条件を考えてみます。
上記⑥の日本で現在行われている国債の市中消化では、国債が貨幣増加の裏付けと成り、政府が国債を発行するとその金額分、国の貨幣の保有額が増加しています。しかし、繰り返しになりますが、国の財産の増加はありません。そのため、国全体として、の経済成長はなく、国債本位制という事はできません。しかし、経済の成長とは、必ず国全体の財産が増加した場合にだけ起こるのではありません。

国の経済の主体は、家計・企業・政府です。このうちの、政府以外の家計と企業を合わせたものが一般に民間(国民)と呼ばれます。日本の様な資本主義経済の国では、経済活動の主役は民間であり、国の財産のほとんどを個人(家計)と企業が所有しています。そのため、国の経済規模は実質的に民間の市場(以下、民間市場(みんかんしじょう)と略します)の大きさによって決定されます。
そのため日本では、「国債発行により、民間市場で貨幣が増加し、その結果民間市場の財産が増加する」ならば、実質的に国債本位制であるという事ができるのです。
以上が、日本において実質的に国債本位制が成立する条件です。従って、上記⑥の結果がこの条件を満たしていることを明らかにできれば、日本が実質的に国債本位制であると証明できることになります。

日本の貨幣制度が実質的に国債本位制であることの証明

日本が実質的に国債本位制であること証明するために、上記⑥の日本で現在行われている国債の市中消化による貨幣と財産の増減について、国全体ではなく、政府(日本銀行を含む)と民間とを分けて改めて検討します。今回は、資金の流れが理解しやすいように具体的な金額を使い、政府による国債の市中消化のプロセスを考えます。
⑦政府と銀行が日本銀行にそれぞれ100万円の当座預金を保有しており、政府が公共事業のための資金として50万円調達するために50万円分の国債を発行する場合いは以下の様になります。
(1)政府が国債を50万円分発行し、銀行がそれを購入します。すると、銀行保有の日銀当座預金は、50万円減り50万円となり、政府の日銀当座預金は50万円増えて150万円になりますが、銀行は資産である国債が50万円増え、政府は負債である国債発行残高が50万円増えます。
(2)政府は、50万円の公共事業を企業に発注し、代金の支払いのために、政府小切手を発行し請負企業に渡します。
(3)企業は、受け取った50万円の政府小切手を銀行(資金の流れを分かりやすくするため政府から国債を購入した銀行と同じ銀行とします)に持ち込み、政府からの取り立てを依頼します。
(4)50万円の政府小切手を受け取った銀行は、企業の預金口座に50万円の入金を記帳すると同時に、代金の取り立てを日本銀行に依頼します。この時、企業の預金(預金通貨)が50万円増え、銀行は負債である預かり預金が50万円増えます。
(5)日本銀行は、政府保有の日銀当座預金50万円(国債を発行して調達した金額分)を銀行保有の日銀当座預金に振り替えます。すると、銀行保有の日銀当座預金は、50万円増えて100万円となり、政府の日銀当座預金は50万円減って100万円になります。
(6)その結果、政府保有の日銀当座預金の金額は国債発行前の金額に戻り、銀行保有の日銀当座預金の金額も、国債購入前の金額に戻ります。そのため、銀行は再び国債を購入することができるようになります。
(7)以下、(1)から(6)を繰り返します。

以上ですが、ここで、政府の国債の市中消化前後の、貨幣と財産の増減を政府、銀行、企業に分けて検証します。
なを、政府と銀行の当初の財産はそれぞれ、貨幣(資産)である日銀当座預金が100万円で、企業の当初財産は0円です。国全体の財産は200万円となります。
政府では、貨幣(資産)は(5)により日銀当座預金が当初の金額の100万円に戻るため増減はありません。財産は(1)により負債である国債発行残高が50万円増えているため、資産から負債を引いた金額は100万-50万で50万円となり、50万円の減少となります。
銀行では、貨幣(資産)は(5)により日銀当座預金が当初の金額の100万円に戻るため増減はありません。財産は(1)により債権(資産)である国債が50万円増え、(4)で負債である預かり預金が50万円増えているため、資産から負債を引いた金額は100万+50万-50万で100万円となり、増減はありません。
企業では、貨幣(資産)は(4)により預金が50万円増加しており、他に資産や負債の増減がないため、財産は預金の増加分の50万円の増加となります。

次に、これを、政府と民間とに分けると以下の様になります。
政府は、貨幣の増減はなく、財産は、公共事業の代金50万円を調達するために発行した50万円分の国債が負債となるため、50万円減少しています。
民間は、貨幣が企業が公共事業の代金として受け取った50万円増加し、その結果財産も50万円増加しています。
つまり、⑥及び⑦により、上記の日本において実質的に国債本位制が成立する条件である、「国債発行により、民間市場で貨幣が増加し、その結果民間市場の財産が増加する」が満たされており、このことより、日本の貨幣制度が実質的な国債本位制であり、日本が制度的に国債本位制が実施されていることが証明されたのです。

なを、⑥、⑦のプロセスにおいて、日本銀行による新規貨幣の発行は行われていませんが、日本銀行が、銀行が保有している国債を新規発行貨幣で買い取ること(買いオペレーション)により、日本銀行による新規貨幣の発行がおこり、その結果、上記②の「国債本位制での貨幣発行は、政府が国債を発行しそれを中央銀行に渡し、中央銀行がその国債と同額の貨幣を発行し政府に渡すことで行われます。」と全く同じ状況に移行します。つまり、現在日本で行われている国債の市中消化は、本来の国債発行の途中の段階であり、結局、本来の国債発行と同じものなのです。したがって、日本の貨幣制度は国債本位制であると言い切っても間違いではないことになります。

ⅱ)日本の国債本位制が経済の悪化や財政破綻を招くことなく維持されていることの証明

日本の貨幣制度が国債本位制であると証明できても、それが今後も維持可能でなければ、日本が国債本位制の国だという事はできません。
しかし、今後、日本が国債本位制を維持できなく理由は大きく二つあると考えています。一つ目は、借金である国債を政府が返済できなくなること(以後、デフォルトと表記する)で、二つ目は、国債の大量発行により、ハイパーインフレや円安、モラルハザード(労働に対する意欲の減退)などが起き、経済が悪化、混乱し経済が破綻すること(以後、経済破綻と表記する)です。
上記二つの理由(デフォルトと経済破綻)により、今回、「日本が国債本位制であり、国債の発行残高が国の経済規模の大きさを表すため、経済成長のためには政府が国債を発行し続ける必要がある」と証明することはできましたが、それでもなを、「そもそも、政府が借金である国債を際限なく発行し続けることが可能なのか」と疑問に思う人が多くいると思います。

幸い、近年、「日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」という否定することのできない事実を理論の前提条件とする、MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)が脚光を浴びています。以下、MMTの考え方も使い、日本の国債本位制が今後も維持可能であることを証明します。

日本において政府の国債発行がデフォルトを起こさない理由

「日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」は、事実であり、誰が考えても、先入観を排除し順を追って理論的に考えれば、同じ結論になります。
それは、日本(政府+日銀)が円を自由に発行できるからです。
ちょっと考えれば当たり前のことです。
日本が円で借金をした場合、例え返済時に返済するお金が足りなかったとしても、その場合は自分で円を発行することができるのですから、返済できなくなる事は絶対にありません。そのため、日本は円建ての国債発行でデフォルトになる事はあり得ないのです。

MMTが脚光を浴びた結果、「日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」という主張が、理論的には否定することのできない事実であることは、MMTに批判的な人たちも含め、多くの人々に知られるようになってきています。しかし、「政府の国債発行がデフォルトを起こさないのは、国債返済のための資金を、新たな国債を発行しそれを銀行(国民)に売ることで調達出来るからだが、国債を発行し続けると、いずれ民間貯蓄が底をつき、銀行(国民)が国債を買うことが出来なくなり、デフォルトとなる。」と主張する人たちが少なからずいらっしゃいます。しかし、これは完全なる誤解です。

日本政府が「国債の市中消化の原則」に従い行う政府の国債発行(⑥、⑦)では、(5)、(6)のプロセスにより銀行が保有する日銀当座預金の金額は国債購入前の金額に戻っています。つまり、政府が国債の市中消化で調達した資金を政府支出として民間へ供給する限り、銀行(国民)が国債を購入しても民間の貯蓄(資金)が減少することはなく、永遠に国債を買い続けることが出来るのです。これが、日本において政府の国債発行がデフォルトを起こさない理由です。

日本において政府の国債発行が経済破綻を起こさない理由

上記「政府の国債発行が経済破綻を起こさない理由」と書きましたが、残念ながら、政府が誤った経済政策を行えば、国債の発行により経済破綻が起こる可能性があります。だから、経済破綻を起こさない理由を強いて言うならば、「政府が正しい経済政策を行うから」となります。
では、正しい経済政策とは何でしょうか。それは、経済が悪化している場合(不景気の場合)は、経済を良くし、経済が順調な場合(好景気の場合)は、その状態をキープし経済を悪化させない政策です。そのため、その時々の経済や社会の状況により行わなければならない正しい経済政策(国債の発行額、増税、減税、財政出動など)は様々に変化し、同じ不景気の場合でも、インフレによる不景気とデフレによる不景気では正しい経済政策は異なり、更には、インフレによる不景気でもその原因が、単に世の中のお金が足りない場合、国の商品などの供給能力が不足している場合、円安の場合、エネルギー危機の場合、或いは、それらの原因が複合している場合など様々であるため、その対応も様々なものになります。したがって、場合によっては、必要な経済政策が国債の発行額を抑えなければならないものになることも当然あり、その場合の、正しい経済政策は増税や緊縮財政など国債の発行を抑えるものとなります。国債発行はあくまでも経済を悪化させない範囲でできるだけ多くなのです。

本解説では、具体的な経済政策に言及しません(能力がありません)が、今後、日本が目指さなければならない経済政策の目標は、はっきりと示すことが出来ます。
それは、「経済悪化をもたらさずにできる限り国債発行額を増やしていくこと」です。
そして、そのために必要なのが、MMTによって得られた「新しい指針」に基づき、どのような経済政策を行うべきかについて研究し議論するMMT経済学なのです。今後、一人でも多くの専門家が、この考えを理解し、MMT経済学の研究と議論に取り組むことで「経済悪化をもたらさずにできる限り国債発行額を増やしていくこと」を実現するための最適な方法を明らかにしてくださることを望みます。

まとめ

以上、現在の日本の貨幣制度が事実上の国債本位制であり、日本が国債本位制を維持している限り、国債が金本位制の金に相当し、国債発行残高が、国の経済規模を表すことを、経済の知識があまりない一般の国民の皆様に理解していただけるように、なるべく簡単に解説しようとしたのですが、自分でも思っていなかったほどの、だらだらとした文章になってしまい、かえって分り難くなってしまったと反省しています。
 以下、皆さんがより理解しやすいよう、そして、この解説の内容を他の人に伝える時の参考と成るように、まず、本解説の内容のまとめを行い、次に、MMTに本解説の結論を加味し、前解説の「一般人のためのMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)基礎知識」10)でお示ししたMMTの4つの結論(「新しい指針」)のアップデートを行い、最後に、本解説とMMTにより導き出される結論をお示しします。

本解説のまとめ

1.金本位制と国債本位制

金本位制は政府が中央銀行に金を渡し、中央銀行がそれと同額の貨幣を発行する貨幣制度です。
 国債本位制は政府が国債を発行しそれを中央銀行に渡し、中央銀行がそれと同額の貨幣を発行する貨幣制度です。
 したがって、国債本位制の国債は金本位制の金に相当しています。
 金本位制の国では金の保有量がその国の経済規模を表し、金の保有量の多い国ほど豊であるのと同様に、国債本位制の国では、政府の国債発行残高が国の経済規模を表し、国債発行残高の多い国ほど豊かな国となります。

2.国債発行残高が国の経済規模を表すことの証明

国の財産が増加するのは中央銀行が新規に貨幣を発行した時のみであり、たとえ市中銀行が信用創造により預金貨幣を創造しても、創造し増加した貨幣の額と同じ額の負債が同時に発生するため、財産の増加になりません。
 国債本位制の国では、政府の国債発行のみが中央銀行の新規貨幣発行を生じさせる裏付けとなっているため、政府による国債発行のみが、貨幣の増加と同時に財産を増加させることになります。したがって、国債発行残高が国の経済規模を表すことになるのです。

3.日本の貨幣制度が実質的に国債本位制であることの証明

日本の様に、資本主義経済の国では民間(家計と企業)が経済活動の主体であり、国の財産のほとんどを民間が所有しています。
 そのため、民間の市場(以下、民間市場(みんかんしじょう)と略す)が日本の経済規模を決定することになり、「国債発行により、民間市場で貨幣が増加し、その結果民間市場の財産が増加する」ならば、実質的に国債本位制であると言えることになります。
 日本における実際の国債発行は市中消化の原則に従い行われています。そのため、政府が公共投資などの資金を調達するために国債を新規発行すると、中央銀行ではなく市中銀行が購入しその代金を日本銀行の当座預金を通じて政府に支払います。政府は、その資金をもとに企業に公共事業を依頼し、その代金を支払います。すると、政府の貨幣は支払った代金分減り、財産も同額分減ることになりますが、企業の貨幣が代金分増え、そのため、民間市場の貨幣と財産が国債発行額分増えることになります。つまり、「国債発行により、民間市場で貨幣が増加し、その結果民間市場の財産が増加する」ことになり、以上のことより、日本の貨幣制度が実質的に国債本位制であることが証明されるのです。

4.日本において国債本位制が持続可能であることの証明

今後、日本が国債本位制を維持できなくことがあるとしたら、その理由は二つ考えられます。一つ目は、借金である国債を政府が返済できなくなること(以後、デフォルトと表記する)で、二つ目は、国債の大量発行により、ハイパーインフレや円安、モラルハザード(労働に対する意欲の減退)などが起き、経済が悪化、混乱し経済が破綻すること(以後、経済破綻と表記する)です。

デフォルトが起きないことについては、近年、「日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。」という否定することのできない事実を理論の前提条件とする、MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)が脚光を浴びた結果、MMTに批判的な人たちも含め、多くの人々に受け入れられ始めていますが、これは、ちょっと考えれば当たり前のことです。
 日本(政府+日銀)は円を自由に発行できます。したがって、日本が円で借金をした場合、例え返済時に返済するお金が足りなかったとしても、その場合は自分で円を発行することができるのですから、返済できなくなる事は絶対にありません。そのため、日本は円建ての国債発行でデフォルトになる事はあり得ないのです。

しかし、「政府が国債を発行し銀行(国民)がそれを購入し続けると、いずれ民間貯蓄が底をつき、銀行(国民)が国債を買うことが出来なくなり、政府が資金を調達できなくなるためにデフォルトとなる。」と主張する人たちが少なからずいらっしゃいます。しかし、これは完全な誤解です。
 政府による国債発行は予算の不足分を補うことが目的であり、国債発行で得た資金は政府支出により民間(家計と企業)へと供給されます。そのため、民間が国債を購入し減少した資金は、政府支出により再び民間に戻って来ます。したがって、民間の所有する資金は国債を購入しても減ることはなく、永遠に国債を購入することが可能であり、デフォルトは起きないのです。

経済破綻については、絶対にないとは言えませんが、これはあくまでも経済政策の問題です。この点については、前解説の「一般人のためのMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)基礎知識」で述べていますので繰り返しませんが、政府が国債発行を、正しい経済政策に基づいて行えば、経済破綻は起きず、間違った経済政策に基づいて行えば、経済が悪化し最悪経済破綻を起こすのです。
 つまり、今後の日本の経済政策の目標は、「経済悪化をもたらさずにできる限り国債発行額を増やしていくこと」であり、この目標に従う限り経済破綻は起こらないのです。
本解説のまとめは以上です。

MMTの結論のアップデート

今回、政府による国債の発行が経済成長に不可欠であることが判明しました。そのため、前解説の「一般人のためのMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)基礎知識」で示したMMTの4つの結論の②「経済の健全化に財政健全化は必ずしも必要ではない。」と③「国債発行による収入を国の「新たな財源」として利用できる。」はそれぞれ、②「経済の成長に財政健全化は有害である。」と③「国債発行による収入を国の「財源」としてできるだけ多く利用しなければならない。」に書き直さなければなりません。

MMTに今回の解説の結論を加味して導きだされた新しい4つの結論(「新しい指針」)は
① 日本がいくら円建てで国債を発行し借金をしたとしても、返済できなくなる事はない。
② 経済の成長に財政健全化は有害である。
③ 国債発行による収入を国の「財源」としてできるだけ多く利用しなければならない。
④ 税金の主な役割は財源の確保ではなく物価の調整である。
となります。

結論

最後に、日本が国債本位制であることにMMTの考え方を加味し導き出される、本解説の結論をお示しします。
「日本の貨幣制度は国債本位制である。国債本位制の国では、国債の発行残高がその国の経済規模を決定する。そのため、日本が経済成長を続けるためには、国債発行残高を増やし続けることが必要であり、国債発行を抑えるために財政健全化を目指す経済政策は、日本の経済成長を阻害し経済力を低下させる間違った政策である。正しい経済政策とは、いかに経済悪化をもたらさずに国債発行額を増やしていくかを目指す経済政策であり、そのために必要なのが、今回新たに得られた「新しい指針」に基づき、どのような経済政策を行うべきかについて研究し議論するMMT経済学である。」
以上です。

追加情報

国債償還についての情報を追加します。
国債発行残高が国の経済規模を決定するのですから、国債を償還すると国の経済規模が縮小することになります。そのため、せっかく、経済破綻を引き起こすことなく発行できた国債を償還するなどナンセンスなことです。国債発行残高は、将来世代への「つけ」というのは真っ赤な嘘であり、本当は、国債発行残高は将来世代への「贈り物」なのです。
実際、日本以外の諸外国では、国債の返済は財政黒字になった時以外は行われておらず、基本的には「借り換え」で対応しており、国債償還のルール(国債の60年償還ルール)を定めているのは世界で日本だけです。
このことについて、三橋貴明氏が、財務省が出した「諸外国の債務管理政策等について」に日、米、英、仏、独、伊の国債の償還ルールや借換財源が一覧表で出ており、日本以外の国は、国債の償還は財政黒字になった時、借換財源は国債発行と出ていると述べられています11)
詳しくは
https://zuuonline.com/archives/252384
をご覧ください。

※財務省が出した「諸外国の債務管理政策等について」のPDFファイルは、財務省のホームページで「諸外国の債務管理政策等について」で検索すると、検索結果の一番上に「諸外国の債務管理政策等について」が表示されますので、そこをクリックするとダウンロードできます。(2024/1/23現在)

参考文献

1)安倍元首相「日銀子会社」発言の本音と建前
https://diamond.jp/articles/-/303337

2)国債本位制:ウキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%82%B5%E6%9C%AC%E4%BD%8D%E5%88%B6

3)通貨∶ウキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9A%E8%B2%A8

4)金本位制と管理通貨制度 NHK for School
https://www2.nhk.or.jp/school/watch/clip/?das_id=D0005402913_00000#in=0&out=95

5)金本位制とは?取り入れるメリット・デメリットや日本における歴史も解説
https://www.otakaraya.jp/contents/gold-platinum/gold/kinhonisei-japan/

6)管理通貨制度:ウキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%A1%E7%90%86%E9%80%9A%E8%B2%A8%E5%88%B6%E5%BA%A6

7)日本銀行が国債の引受けを行わないのはなぜですか?(教えて!にちぎん)
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/op/f09.htm

8)中野剛志『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』ベストセラーズ、2019年4月30日 P121からP123

9)【三橋貴明】続 国家のお金の発行と国債発行の仕組み
https://38news.jp/economy/08074

10)「一般人のためのMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)基礎知識」
https://neoaether.jp/hachidori/keizai.html#keizai2-1

11)国債の60年償還ルールを定めているのは世界で日本だけだった
日本経済 失敗の本質(4)
https://zuuonline.com/archives/252384

2024年1月27日


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2017年9月30日


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初版:2016年6月25、最終更新:2024年1月28日
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